mugisanの詩集   2004 12

 

     ギュダ君の名前は

 ささくれ           

  朝が来て

  見上げている

 ソウル・メイト

 バイパス

 メッセージ

  おめでとう13歳

 時刻

 畑 大地

  ひかり

 君が好きだったもの

  ふるさとの街には

  今夜は 風がない

 君の足跡を

 朝の記憶

 メメントモリ

 雪が降って 降り続いて

 2004年

掲載された作品の無断転載はお断りします
  ギュダ君の名前は

 

ギュダ君の名前は、最初旧約聖書のサムエルから取った。でも。ある日同じ意味の言葉が、新約聖書にあることに気がついた。こちらのほうが、意味がはっきり伝わるのでこちらを彼の聖句とした。ルカ1−76〜79

「幼子よ、お前はいと高き方の預言者と呼ばれる。
主に先立って行き、その道を整え
主の民に罪のゆるしによる救いを 知らせるからである。
これらはわれらの神の哀れみの心による。
この哀れみによって、たかいところから暁の光がわれらを照らし、われらの歩みを平和の道に導く。」


そうだったよなあとしみじみ思う

2004129日)

 

 


ささくれ

 

君の 白いワイシャツを
手にとって

最後に
 君がこれを着たのは2年前の春
 かすかな襟の黄ばみを

洗い流してしまえなくて
ためらいながら 石鹸を水でぬらす
指先の小さなささくれが
ちりちりするから

また畳みなおして

いつの間にか 君の居ない冬

 

2004121日)


朝が来て

 

朝が来て
ろうそくを灯す

じゃあ 行ってきます
いつもと 同じ朝だった

二度とこない 朝だった
最後の朝を 手繰り寄せて

一本の灯り
この扉を開けて 帰らない 朝の
終わりのない リフレイン

また 朝が来て
この扉の 前に 
私は 灯りをともす

 

2004121日)


 見上げている

 

見上げているよ
空の  向こうの  空間を
空は幾重にも重なった空間の一部で
わたしが包まれているのもまた空間の一部で
重なり合ったままゆっくりと回転している

昨日から今日 今日から明日 明日からその先に
どこまでさかのぼれば
過ちの 最初の一歩にたどり着くのだろう

重なり合った時間の影を  見上げているよ

2004122日)

 


 ソウル・メイト

 

少年を見た
大切な 友達を亡くして
たった一人で ベンチに腰掛けて
泣きじゃくっている 少年を見た

去年の12月14日 同じ場所で
少年は 泣いていた 
あの時 隣に座って
肩を抱いてくれた一つ年上の  兄のような友達は
16年7ヶ月21日を生きて

もうどこにもいない

冬の雨の中を 歩いてきたから
パーカーのフードがぬれて重く冷たい
泣きじゃくる肩が ゆれて 
しみは行き場がない

子供を亡くした母親が そっと隣に座って
少年の肩を抱く  つぶやく
悲しい思いをさせて ごめんなさい

少年は 握り締めた拳で 涙を拭く
何故とも 何で ともたずねる事はしない

高校に合格して、しらせた。いつもは直ぐ、メールが帰ってくるのに、こなかった。変だと思っていたら、なくなったって電話が来た。

ああ こんなにも深い悲しみ

あの日二人は16歳と15歳
魂の結び合った兄と弟

6月20日一人は16歳になり
5月7日ひとりの時間は止まった

少年は言った
僕は、彼に何もして挙げられなかったから
彼の代わりに 僕を使ってください

子供を亡くした母親は
少年の名前を手のひらに書いて
握り締めた
その手を胸に当てて 遠い街に帰る

少年のひだりの頬に
小さなえくぼ
よく似たほっそりとしたシルエット
少年は北の町に帰ってゆく

もう直ぐあの日
二人が階段に座っていた日
12月14日が来る
ソウルメイト

2004126日)


バイパス

 

冬なのに 陽射しが暖かくて 
こんな日は 君を思う 


君は嬉しそうに  笑って
見送る私に片手を上げる
握りこぶしを突き上げて

軽々と自転車で走り去ってゆく
お気に入りの
黒いジャケット 黒いズボン 黒い帽子
教科書のリュックを背負って
行って戻って25キロの道のり

毎日 君が渡っていた
あの大きな二つの橋
バイパスに架かる 大きな橋

嵐の日はまともに風が吹き抜けるから
小柄な君は、吹き流される
自転車を降りて押して渡る
嵐の日は
自転車を押して帰ってきた

もう今は

私は、あの道は走れない
君の走った道は 走れないんだよ
嵐の朝
朝早く 学校に向かって 君を乗せて走った あの道は

どこかに 君の 残した足跡がありそうで
風の中に 君の声が残っていそうで

あの日から 私はあの道を走れない


こんないいお天気の時は
君が 軽々と 走り抜けていくようで
交差点に立って 君の姿を探している

2004127日)

 


メッセージ

 

君は きっと 生まれる場所を自分で選んだ
君は きっと私とお父さんを選んだ
君は この兄を姉を妹を選んだ

君は予め出会う全ての人と 全ての出来事を選んだ
そして最後の一滴まで、杯を飲み干した
愛でしか開くことのない扉を開けた

思い出して欲しい

私たちは 君の全てを受け入れ
私たちは君の全てを愛した
君が君だから。

生まれてくれた事
一緒に毎日を過ごせた事
私たちを受け入れ、許し、愛してくれた事
君の くれた全ての思い、気持ち、言葉、行動

君の存在の全てを
抱きしめる

君にもう言葉は必要ない
君にもう物は必要ない

今、思うことを君に伝える

君は我が身の血と共に在る
この身体に君と同じ血の流れている
私たちは 家族という一本の木
私たちは 同じ幹に生える一本の枝
君の 枝は
形を変えて、兄の枝に、姉の枝に、妹の枝に
春が来たら芽を吹く
そしてやがて青々と葉を広げる

生きるということ
死んでゆくということ
全ては一つの大きな螺旋
君は私たちの中に生き続けている

君へのメッセージ

2004128日)


おめでとう13歳

 

我が家の末娘の生まれた日です。雪がちらちら降ってきて、これから降り積もりそうなお天気でした。自分で車を運転してゆこうと階段を下りていったら、夫が下から上って来ました。

 幼稚園だったギュダ君はピーターパンのビデオに夢中でした。何本かディズニーアニメを繋げて一本にしておいたので、ビデオを見ているうちに上の子が戻ってくるはずでした。小学5年生のお姉ちゃんと一年生のお兄ちゃんとギュダ君と3人でこの日は手巻き寿司が献立なので、『ミツカン寿司酢』をスキップで買いに行ったとあとで聴きました。

 幸せな、誕生でした。その秋の終わりに母が亡くなって、なんとなくおばあちゃんの代わりにこの娘を頂いたような気がしました。夫が立ち会いました。人が苦役を果たしているとき、夫は助産婦と子供の名前当てクイズに興じておりました。まあ一部始終を思い出せるという事は、私も冷静だったということでしょうね。

 名前は、いつものように聖書の一節から。漢字一文字で読みは三文字。なかなか読めないという、一度聞いたら忘れない。不思議な名前です。

彼女の聖句は
『神はその天使達を風とし、ご自分に仕えるものたちを燃える炎とする』
というヘブライ書の一説です。

 人生が辛いものだともう13歳で分かってしまった娘に、だからこそ、「さいわいであれ」と祈りたい。悲しみが多い分、心が深く大きくあったかい人になりますように。

2004129日)

 


時刻

 
君の決めた 一日の始まりの時刻
朝が来ると 君のPHSは 
20回 べるを鳴らす  聞きなれた日常

今日も君のいない朝が やってきた
君が 決めたこの時刻

君の朝の為に灯りをともす
君の一日の為に香を焚く

朝が来たら 必ず一日が始まり
やがて 一日が終わってゆくことの 
なんという 
危うさ 不確かさ
君が 居た  朝

最後の朝の 記憶

君が 呼んでいるようで
ベルを 止めないで  手の中に包み込む

20041210日)

 


畑 大地

 

君の植えた 菊の花を
今日手折ってきた。

紫色の小菊が溢れるように咲いていた。
君は この花が 咲くのを見る事は無かった
紫の小菊は 優しかった君の面影に似て

今はもう冬
君のいた季節は はるかに遠い

私は思う
昨日見た夢の続きのように
淡く 寂しい

君の蒔いた種の後始末をしたよ
ピーマンを抜いた
ナスも抜いた

みんな枯れていたよ
また春が来ると 遠い空から君が言う
また春が来たら 君が好きだった 野菜の種を蒔こう
君がそうしたように 
あの時 そうしたように

20041211日)

 


ひかり

 

光を
木にまとわせて
12月は 輝いているって  妹が生まれた日
大人用の大きなスリッパを パタンパタン
それでも一生懸命上手に気をつけて

今までちびチャンだった君が  巨大に見えて
笑った  突然大きくなったねって

赤ちゃんの指をソットつまんで 君は 小さいねえ
光のトンネルをくぐってきたよ

4歳離れた兄と妹
いつでも君は側にいて  守ってあげるからと
約束したのに

今年は大きなツリーができたよ 
君は 光の向こうから 
あの夜のように  妹の指をつまんで

光のトンネルをくぐって
どこまでも歩いていく

 

20041212日)

            


君が好きだったもの

 

暖かな日差し
雲が流れていく 風の軌跡
むくむくした子犬
子犬の太い手足
黒くぬれた冷たい鼻
抱きしめると伝わってくるぬくもり
走り抜ける自転車
真っ白い紙と0・3ミリのシャーペン
一眼レフ 現像液 印画紙 
無機質な 時においていかれたさびたパーツ
誰もいない浜辺
林を過ぎる風
砂浜の足跡
高く舞う鳶
風鳴り


深々と降り積もる牡丹雪
寒さできしむ凍った雪の足音
抱え挙げられない大きな雪ダルマ
熱々のステーキ
手打ちそばの天ざる大盛り
スイートポテト
プリン
ホットミルク

何よりも猫

あの子

黒い帽子
黒いコート
黒いシャツ
黒いセーター
黒いズボン
黒い靴

スピッツ・バンプ・・・・・歌、歌、歌


家族 
神様と・・・・兄弟達
やっぱり家族

書ききれないもっと沢山の愛したもの達
君を愛したものたち



君が受けた 愛
形のない 一番大切なものたち
形の残らない 大好きなものたち

誰も奪う事ができない君の存在の記憶

20041213日)

 


ふるさとの街には

 

ふるさとの街には
もう誰も待っている人はいなくて
小高い丘の中腹には
広々とした市民墓地公園がある
祖父母が眠っているお墓が
 いつか時が過ぎたら
私が土に帰るのはあそこだろうか

家族から離して 16歳の君を
 たったひとりで
土に返すには忍びなくて


幸いにしてこの国の法律は
愛するものを亡くした人には優しくて
埋葬許可証さえあれば 
何年でも手元に君を置いておける

家族の中に  いままでいたように
これからもいていいのだよ 周りがどう思っても
一向に構わないから
気がすむだけ一緒にいよう

いつか母が大地に帰るとき
いつか父が大地となるとき
君の身体を抱いて一緒に土に帰ろう

君がすべての制限から限りなく自由になって
あのふるさとの街を
今夜は 星のように巡っていると思うと
なんだかとっても
暖かな気持ちになる


せめて  大地に
せめて  大海原に
光ながら 舞いながら  風になって 舞いながら

20041214日)

 


今夜は 風がない

 

夕暮れが早くなって  台所の窓に
もう夜が降りてくる

今夜は 風がない
風が吹くと  君が  歌っているような気がして
窓の外の 黒い杉の林を見つめる
 
ゆっさゆっさと枝を揺らして
君は 風になって ここにいるよと
そんなことを 思ってみる

何を思ったっていいじゃないか
君に帰ってきて欲しいだけだ

ベランダに立って  ソット君の名前を呼ぶ
かえっておいでよ  待っているから

今夜は 風がない
月が出たら  君の影を探してみようか
涙が こんなに流れるものだと 君は知っていたか

君が 行ってしまってから
私は
終わらない かくれんぼをしているようだ

20041215日)

 


君の足跡を

 

フットステップ君の 踏んだところだけ色が変わっていたらいいのに
君の手の痕が残っていたらいいのに
土に足跡が残っていたらいいのに
アスファルトの道は 何も残してはくれない
手の痕を、コンクリートの壁は残してはくれない

君が生まれた家は、いまも誰かが幸せに暮らしている
君が育った家は、細切れの記憶のなか

転勤して 引っ越して
赤ちゃんの君は盛岡の林の中
幼子の君は仙台の坂の街に
幼児の君は福島の小鳥の森にいて
少年の君は仙台盛岡仙台

君は  居る  風の中  
林の中  川の側  光のはしご
歌っている  見つめている
走っている 泣いている  君の横顔
ほそっこくて たおやかで
 強靭な鋼の綱  少年の君
妥協の無い  研ぎ澄まされた感性と知性

きみの足跡を  確かめてみたい
君の踏んだ土を 踏んでみたい
どこかに、きっと残っているはずの

君のいた日々の記憶

20041219


朝の記憶

 

夜が明け染める頃
小鳥よりも 早く  朝の光が生まれる前の
天と地が溶け合う時刻  風は吹いたのだろうか
最後の星は あったのだろうか

あの時君は生まれた
夏の終わりの 晴れ渡った朝
君は わたしたちの家族になった

孤独な 旅の始まり
人はみな 誰かを旅の道づれに生きようとする
君が探したものは 見つかったのだろうか
なくした物は 見つかったのだろうか
傷ついて 傷ついて
それでしか 手渡せなかったものは  届いたのだろうか
君が 託していった 手紙は読まれたのだろうか

あの日から 君の時刻は止まったまま 
時間だけが 過ぎてゆくよ
君が君らしくあったように
私もまた 私らしく ありたいと願う
君が愛した 私らしく

あの朝
君が生まれた  八月の朝
刻まれた記憶

白い紙に君の生きた日々を書こう
君が生きた  あの日々を書こう

20041221)               


メメントモリ

 

光の中に木が立っている 若木の林
君が好きだった木立の中を
光の帯が 流れていく
木の香りが  少年の君に重なる

光がまぶしいと 目深に帽子のつばを引く
肩をゆすって歩いてみる  細い少年のシルエット
クスクス笑いながら  拾った枝を振り回す

藪をたたいて なぎ倒して
君の 心の 荒々しい思い
言葉にはしない 何も形には表さない
何も残さない 決意

口笛を吹く
長く鋭く吹く
鋭く 裂いてゆく  切り離してゆく
風の  道を  走るのは誰だ

林の中に  少年の影
湿った土のにおい


メメントモリ

20041227

 


雪が降って 降り続いて

 

今年初めての雪が積もった
雪かきは いつも君の仕事で
黙々と 降りしきる雪の中で
道をつけていく
光の当たるところは白い雪が降りつむ
影の雪は灰色の雪が舞う
見上げていれば いつの間にか空に吸い上げられてゆく 
君は 見上げて 空いっぱいに手を伸ばし
笑う 笑う

君の作った道は
明日の朝 父の通る道 妹の通る道
君は 父を思い 妹を思い
一本の道を作る
 
妹は 雪が降るのが辛いという
君の 居ない 雪の夜は辛くてたまらないという
そして ひっそりと泣く

今年 初めての雪が積もった
君のいない初めての雪の夜

20041230

 


2004年

 

この年 春の朝 君が旅立った
君のいない毎日に 私たちは少しだけ慣れた
君がいるはずの 日常の空間を
ひっそりと痛みが満ちて
 寂しさが 言葉を奪っていった

お互いの中に 面影を見つけて
流れている血を思う 君の身体に同じ血が流れていた
家族というものの 絶つ事のできない絆
愛しい 君のいた日々の記憶 

この日常の ほんの少しの気温の低さ
君のぬくもりがない
いるはずの この場所がいつまでも 塞がらない

君のいない夜の長さに まだ慣れることが出来ない

20041231